構想エネルギー21研究会エネルギー産業構造の変革期が訪れようとしています
一柳が代表幹事を務める構想エネルギー21研究会の第139回勉強会を開催しました
2022.05.24 更新
2022年5月19日 当社社長一柳が代表幹事を務める構想エネルギー21研究会の第139回勉強会を開催しました。今回は、㈱豊田中央研究所ビヨンドX研究部門 シニアフェロー(工博)森川健志様を講師にお迎えし、『CO2と水から有機物を合成する人工光合成』とのテーマでお話しを頂きました。
はじめに、豊田中央研究所(以下「豊田中研」)では、14年前から人工光合成に取組んだ経緯の説明がありました。当初の狙いとしては、人工光合成の技術開発に成功すれば、将来のエネルギー問題への有力な対応策になり得るというものでした。開発から4年後の2011年には、太陽光エネルギーを利用した半導体と分子(金属錯体)触媒の複合化技術で環境負荷の少ない常温常圧での動作により、二酸化炭素と水からギ酸を合成しました。その時の太陽光変換効率は0.04%でしたが、その後改良を重ねて2021年末には1m2 サイズの受光部と電極で10.5% を達成しています。合成されたギ酸は、常温常圧での水素キャリアなどへの活用などが期待されます。
人工光合成の研究では、国内外で様々な取組みが行われております。
東京大学などでは、大面積の太陽光水分解触媒パネル反応器と酸水素ガス分離モジュールを連結したソーラー水素システムを開発し、今後低コストで大量のソーラー水素製造の実用化を目指しています。米国では、オバマ大統領時代の2010年に巨費を投じ国家プロジェクトとしてカリフォルニア州に「人工光合成ジョイントセンター」を作りました。合成する物質ですが初期は水素で現在は有機化合物に、また方法は固体触媒と半導体の融合技術から始まり、現在では分子触媒と半導体の融合技術の研究も進められています。
豊田中研の今後の取組みとしては、低コスト化・低ライフサイクルCO2排出を目指し鉄やマンガンなどの汎用元素を使うCO2還元反応の実証し、様々な化学物質の生産にも利用可能な「工業原料ガス」の合成に注力します。更に、一室&一液型の反応による粒子触媒方式の水中懸濁による人工光合成或いは若手研究者による太陽光変換効率20%以上のトライなど様々な取組みが行われています。
可能な限り早期に、実用化に向けた技術基盤の確立を目指し、地球環境問題の解決に貢献できるようにしたいと結ばれました。
質疑応答では、「人工光合成によってガソリンや航空機燃料がつくれるか?」或いは「人工光合成の成果実現による実用化の方向性」更には「ベストパフォーマンスの人工光合成の成果実現による2050年カーボンニュートラルへの寄与度は何割位か?」などの質問に対する森川講師とのやり取りで大いに盛り上がりました。
今回の出席者からは、「森川講師のチームが、たくさんの改善や創意工夫により高効率化を実現する様子をつぶさに拝見し、ポジティブな取組み姿勢に感動した。」或いは「夢の技術と云われる人工光合成が、変換効率10%を越えており心強く思います。日本が主導する技術力で実用化に突き進んで欲しい。」などの声が有りました。
なお、講義終了後には、2年振りに講師を交えた懇談会も開催され、参加者も多く、懐かしく久し振りの交流が和気藹々活気を帯びていました。
【講師ご略歴】
○ 森川 健志(もりかわ たけし)様
株式会社 豊田中央研究所 beyond-X研究部門 シニアフェロー(工博)
専門: 光触媒、光電気化学、半導体工学、機能薄膜(学位は磁性薄膜)
略歴 1987.3 名古屋大学工学部 電気・電子工学科卒業
1989.3 名古屋大学工学部研究科 電気・電子工学専攻 博士前期課程終了
1989.4 (株)豊田中央研究所入社
研究開発歴
<自動車用センサ開発>
・半導体圧力センサ:エンジンシリンダ内燃焼圧計測用(カリーナに搭載)
・水晶振動子式ヨーレートセンサ:車両運動制御用(プログレ等に搭載)
・磁界センサ:軟磁性体/導体複合体の磁気インピーダンス効果
・軟磁性薄膜:磁性微粒子ネットワーク構造をもつ材料開発
<光触媒、光物質変換>
・可視光応答型光触媒 (N-doped TiO2):環境浄化の用途
・人工光合成(半導体/分子触媒の複合体):CO2と水と太陽光で炭素化合物を合成
受賞 日本ファインセラミックス協会 技術振興賞(2003)
日本セラミックス協会 技術賞 (2006)
The American Ceramics. Society, Corporate Environmental Achievement Award (2006)
日本化学会 化学技術賞 (2007)
中日産業技術賞 (2011)
電気化学会 技術賞 (2017)
環境省 地球温暖化防止活動 環境大臣表彰 (2017)
文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)(2020)
など
所属学会:日本化学会、電気化学会、触媒学会、IEEE(米国電気学会)、ACS(米国化学会)
趣味 :読書、山道散策