構想エネルギー21研究会エネルギー産業構造の変革期が訪れようとしています
一柳が代表幹事を務める構想エネルギー21研究会の第132回勉強会を開催しました
2021.05.24 更新
2021年5月20日 当社社長一柳が代表幹事を務める構想エネルギー21研究会の第132回勉強会を開催しました。
今回は、いであ株式会社 取締役副社長 環境測定事業担当 環境創造研究所所長 / 茨城大学客員教授 森下哲様を講師にお迎えし、『Beyond2030 持続可能、脱炭素、レジリエントな社会をどう創るか』とのテーマでお話し頂きました。
はじめに、今年11月に英国グラスゴーで開催される気候変動COP26の4つの主要課題の説明がありました。
・2020年資金目標1千億ドルを含む途上国に対する約束の履行と新たな目標の設定
・CO2クレジット国際取引ルールの制定等の残された交渉課題の合意によるパリ協定の完全稼働
・緩和と適応の両分野での野心の向上
・あらゆるステークホルダーの関与等であります。
次に、主要国の気候変動への取組姿勢の説明です。
本年開催のG7サミット及びCOP26の議長国の英国は、極めてアグレッシブに取り組んでおり、昨年11月にジョンソン首相が「グリーン産業革命に向けた10ポイント計画」を公表し、本年4月の米国主催の気候サミットで、2035年までにGHGsの78%削減(1990年比)をコミットしています。
バイデン新政権の米国は、2月にパリ協定に復帰し、レジリエントで持続可能な経済を構築し、2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロを目指します。自ら主催の4月の気候サミットでは、2030年までに50~52%削減を唱え、全主要国が自国の排出削減目標を引き上げるよう主導しています。
EUは、従来からの産業政策に加え社会構造改革を提唱するプログラムの「欧州グリーンディール」を2019年11月に発表し、EU域外企業に対する炭素国境調整措置の導入や、脱炭素やDXで雇用を失う人たちに再訓練や雇用機会へのアクセスを提供する基金の設置・運用等に取り組んでいます。
中国は、2020年9月の国連総会のビデオ演説で習近平国家主席は、「2060年までにカーボンニュートラルの実現を目指す」と宣言し、2030年までに温室効果ガス排出量をピークアウトし、GDP当たりの排出量65%超削減は変更していません。
これらの主要国に対し日本は、2020年秋の臨時国会で、菅総理が、2050年カーボンニュートラルを目指す旨の宣言をし、温暖化への対応を成長機会と捉え、経済と環境の好循環を作っていく産業政策の「グリーン成長戦略」を策定しています。今年4月の気候サミットで、菅総理は2030年度における温室効果ガス46%削減(2013年度比)をコミットしていますが、この実現には従来からの施策の積み上げでは不可能でイノベーションが必要と言われています。
気候変動対策について森下講師が強調されたことは、以下の諸点であります。
・気候変動対策は、脱炭素を含めた、サステナビリティという大きな枠組みの下で進展していくということです。これからは交渉から実施へと移行し、実施の進捗を評価するメカニズムの構築が必要になり、その際に国毎ではなくセクター別のレビューも想定すべきであります。
・これからの焦点は既存システムの変革です。気候変動を含め、より持続可能なものに変革するためのアプローチに移行します。その際、コベネフィット(複数便益)の確保に着目し、優先度の高い分野の生物多様性、循環経済/食料システムなどでの取組みが今後重視されるでしょう。国際的な評価手法や進捗状況の把握の共有が必要です。なお、技術の一本足打法にならないよう注意が必要です。
・手法としては、ファイナンスの役割が極めて重要になって、資金の流れを含む既存の国際的な評価手法や定義にも変更が加えられます。個別企業にとっても、気候変動の財務への影響の把握が求められます。そのためにも、サプライチェーンを含めた自社の温暖化ガスの排出量の把握が先ず大切です。持続可能性に着目した国際的な評価基準の検討も進められていることにも留意すべきです。今後は、製造流通段階でのCO2排出量に加え、人権も含め、製品の持続可能性に関する情報が、製品に内包される機能として扱われることになりそうです。輸出入に影響が出てくることも考えておくべきです。
質疑応答では、「二国間クレジット(JCB)の取扱」や「温暖化対策への政府組織体制在り方」などについての率直な意見交換で大いに盛り上がりました。
今回の出席者からは、「気候変動対策に関連する様々なルールを作る国連やその他の国際機関に対して、日本は何処までアプローチが出来ているのか心配です。森下講師にも大いに頑張って欲しい。」 或いは「個別企業にとっても、開発からサプライチェーンやファイナンスに至るまで気候変動対策を経営の真ん中に据えて掛からなければならないことを痛感した。」などの声が有りました。
【講師ご略歴】
○ 森下 哲 様
出身地 愛媛県
学位: 1984年3月 工学士(東京大学)
1986年3月 工学修士(東京大学)
1996年4月 Master of Science (米国ミシガン大学環境工学科)
職歴: 1986年4月1日 環境庁入庁
1986年4月~1988年3月 環境庁環境保健部保健調査室
1990年4月~1992年3月 通商産業省工業技術院総務部ムーンライト計画推進室技術開発
専門職(出向)
1995年1月~1996年6月 米国ミシガン大学留学
1997年8月~2000年12月 経済協力開発機構(OECD)環境局環境保健安全課
アドミニストレーター(出向)
2004年7月~2005年6月 環境省環境管理局総務課調査官
2005年7月~2007年6月 同環境保健部化学物質審査室室長
2007年7月~2008年6月 同環境保健部環境リスク評価室長
2008年7月~2010年6月 大阪府環境農林水産部副理事(出向)
2010年7月~2012年6月 環境省廃棄物・リサイクル対策部リサイクル推進室長
2012年7月~2013年6月 同水・大気環境局自動車環境対策課長
2013年7月~2014年6月 同水・大気環境局放射性汚染物質対策担当参事官
2014年7月~2015年6月 同環境保健部環境安全課長
2015年7月~2016年6月 同地球環境局総務課長
2016年7月~2017年6月 同大臣官房審議官
2017年7月~2019年6月 同地球環境局長
2019年7月~2020年6月 同地球環境審議官
2020年7月 環境省退職
2020年11月 いであ株式会社技術顧問兼環境創造研究所長
2021年3月 いであ株式会社取締役副社長 環境測定事業担当、環境創造研究所所長
現在に至る。
2021年4月 茨城大学客員教授